NOTシリアス
悪友+英が同学年 米は一個下です。
NOTシリアス
「あー、終わらへん!」
そう叫んで、アントーニョはシャーペンを投げた。
メタリックシルバーの輝きが、空欄ばかりが目立つ問題集の上を転がった。
「終わらないって、これの提出期限今日よ?」
ガリガリと堅実に空欄を埋めながら、フランシスが苦笑した。
始まったころにはあんなに長く感じていた夏休みはあっという間に終わり、夏の残像を残す空は、それでも少しずつ秋の色を見せ始めている。
そんな空を窓越しに臨む教室で、フランシスとアントーニョはやり残した夏休みの課題に追われていた。
「そもそも課題に問題集一冊丸々ってふざけとるんとちゃう?」
「まあ、それは今に始まったことじゃないし」
薄いとはいえ、百を超える難易度の高い問題がひしめく問題集は、夏を謳歌する健全な高校生には荷が重すぎる気がしないでもない。
しかも残っている課題はこれだけではないというのだから、泣けてくる。
こんなときばかりは、なんでこんな学校に進学してしまったのだろうと思う。家が近いという理由だけで進学校と呼ばれる学校など選ぶべきではなかったか。
「なー、ここどうやって解くん?」
「ごめん、今俺も余裕ない」
「しゃーない、もう写経でええか」
「おーおーそうしろそうしろ」
こんな時の最終兵器、写経。
回答を丸写しするという、教師にばれたら大目玉では済まない、諸刃の剣である。
できるだけリスクを軽減するべく、接続詞や語尾を変えてみたり、わざと間違えてみたりと、小手先だけの技術をフル活用しつつ、問題集を片付けていく。
「なー、フランー」
「んー、何ー?」
「よく考えたらこれ全写ししても時間足らんかったわ(笑)」
「……ご愁傷さま」
答えを丸写しするとしても、ペンを滑らせるその時間が足りなくては意味がない。
やたらと複雑な数式に、やたらと長い証明。ただ写しているだけだというのにウンザリとしてくる。
投げ出して自由になりたいのは山々なのだが、今日中に提出しないと受け付けないと教師に宣言されているのでそれもできない。
前々から思っていたが、提出点の配点は、高すぎると思う。
提出点が零の場合、どんなにテストの点数が高くとも、評定が必ず1下がってしまうような配点なのだ。必ず提出物を出すようにとの教師の思惑なのだろうが、すっごく腹が立つ。
カリカリ、カリカリ、
「なー、」
「んー?」
沈黙に耐えきれずにアントーニョが再び口を開く。効率が悪いことこの上ないのだが、現実逃避がしたいがためだけについついフランシスも返事を返してしまう。
「何でギルがおらんの?」
「あれ?ホントだ、いない」
「ブッ、フランシス今まで気づいとらんかったの?」
きょろきょろと周囲を見回したフランシスにアントーニョが吹き出した。壊れたようにけらけらと笑い続けている。
「お前、笑い過ぎ……」
のしかかる現実にねじが一本外れてしまったらしい。腹を抱えて笑うアントーニョを憐れみの目で流し見てから、フランシスは改めて教室を見回した。
空調設備の低い軌道音の響く教室には机を向かい合わせにして勉強をする二人のほかに誰もいない。
3人で机を突き合わせて、べらべらと雑談をしつつ課題に取り組むのがいつもの光景ではなかっただろうか。
「どこ行ったんだろうね。あまりにも終わりそうになったから逃げたとか?」
「ギルならありうるわー」
そんな風に結論付けたとき、がらりと教室の扉が開いた。
「お、お前らこんなとこにいたのかよ」
軽薄そうな笑みを浮かべたギルベルトがそこにいた。肩に薄っぺらな鞄をぶら下げて教室に入ってくる。
「おー、ギルやん。今お前のこと話してたんやでー。一体どこ行っとたん?」
「ルッツの部室に顔出してたんだよ」
「確か漫研だっけ?」
「おうよ。ついでにフェリちゃんと菊ともおしゃべりしてきたぜ」
「オーオー、余裕だねぇ。そんなことしててお前課題大丈夫なの?」
この分では課題の存在すら忘れているのではないだろうかと、フランシスが笑った。どうせギルベルトのことだから全く手をつけていないのだろう。
真っ青になる顔を目いっぱい笑ってやろうと待ち構えていると、案の定ギルベルトがきょとんとした表情をした。
「課題?」
何のことだと言わんばかりに傾げられた顔の目前に、アントーニョが問題集を突き付ける。
「これ今日提出やでー、ギルー」
によによと笑うアントーニョとフランシスに、ギルベルトがますます疑問の色を強くして、次の瞬間、二人にも勝る笑みをその唇に浮かべた。
「お前らまだそれ終わってなかったのかよ、だっせぇー」
によによによによと勝ち誇ったような顔を浮かべる顔に、残された二人がぽかんと顔を見合わせた。
まるでそんな、自分は課題がすでに終わっているような、
「う、嘘やっ、ギルが課題終わっとるとか、そんなのありえへん!」
「ちょっ、あまりに終わってないからってその開き直りの仕方は間違ってるよ!」
「なっ、失礼な奴らだな。んなもん始業式の時に提出済みなんだよ。てかもう返却されてるしな」
そう言ってギルベルトが何も入っていなさそうな鞄から現在フランシスたちが格闘中の問題集を取り出した。裏には、教師の確認印が捺印済み。
「ちょとお兄さんに貸してみ!」
それを奪い取ったフランシスがパラパラとページをめくる。
その性格にそぐわぬ角ばった文字(ギルベルトは意外に整った字を書く)がびっしりと並んでいた。
悩んだ後の見える計算式に、消すのが面倒になったのか、斜線の引かれた方程式、空白を締め出すように赤で書き込まれた添削。
「写経じゃ、ない、だと……!」
「なんやって!?」
フランシスと、それにつられて問題集を覗き込んだアントーニョが絶句する。
「ギル、いったい何が……」
「それよりもよー、」
ダメだ、話聞いてない。
「これ見てみろよ」
さっきの仕返しとばかりにずいと突き出されたのは、今日返却された数学の実力テストだった。
夏休み明けの緩んだ生徒達を一喝するべく作成された実力テストは、200点満点という点数の高さから問題数が多く、その問題も難易度はヘタすれば定期テストよりも高いもので。
これが100点満点だったらよかったのに、いや100点満点であるべきだ、そうこれは100点満点のテストなんだよ、きっとそうさ。
そんな幻想を生徒に抱かせるテストである。
実際、文系なら6割、理系でも7割取れれば十分だとさえいわれるテストを、ギルベルトは、
「ひゃく、きゅうじゅう、に、点?」
B4サイズ×3枚のテスト用紙の一枚目。右上名前の横に書きなぐられた数字は、何度見直しても192。
「ウソだろぉおおお!!!」
「ウソやぁああああ!!!」
夕暮れの教室に、絶叫が響いた。
間。
「で、なんでそんな点数高いわけ?」
ようやく落ち着きを取り戻したフランシスが、先ほどよりも自慢げな、ものすっごく腹のたつ笑みを浮かべるギルベルトに問いかけた。
「親父に数学見てもらったんだよ。最高点だってよ、俺様すっげー!」
打って変わって無邪気ともいえる笑顔。
ちなみに、ギルベルトの言う親父とは、血の繋がった実父のことではない。
「フリードリヒかぁああああ!!」
「夏休みにちょくちょく学校来てた理由はこれやったんやなぁああ!」
フリードリヒ。この学校の数学教師である。
ギルベルトが異常に懐いており、フリッツ親父と呼び慕っている。
「課題が終わってるのもそういうことか……」
だがならば。
「数学は終わってるかもしれないけどなぁ、明日は化学の提出もあるんだよぉお!」
びしぃ! とフランシスは人差し指をギルベルトに突き付けた。
この調子ならば、数学を終わらせたことに粋になってそれ以外は全く手をつけていないパターンだろう。
せいぜい泣きを見るがいい!終わってないのは俺も同じだがな!
「や、それも終わってるぜ」
あっさりと返されて、フランシスはがっくりと膝を折った。床に手をついて悪友の抜け駆けを嘆く。
隣ではアントーニョが机に突っ伏して真っ白になっていた。
「もーなんなん?中学の時はギルが一番課題溜めとったやん」
生気の抜けっきた瞳でアントーニョが問う。そんな二人にお構いなく、ギルベルトがうれしそうに笑った。
「フリッツ親父が、お前ならできるって言ってくれたんだよ。課題全部提出した俺様カッコイイー」
流石フリードリヒ。ギルベルトの扱い方を心得ている。
この裏切り者……!と心の中でギルベルトをなじりつつ、フランシスはもう一人の腐れ縁のことを思った。
毎回毎回学年最高位を総なめにしていく主席殿はそれはそれは悔しい思いをしていらっしゃることだろう。
それを思うと少し溜飲が下るようで、ギルベルトの裏切りも許せそうな気も……
いや、してこないな。
とりあえず目の前で笑うこいつを殴ろうかと、フランシスは拳を握りしめた。
「アルフレッドぉー」
「うわっ、どうしたんだい? アーサー」
「テストがっ、テストがぁ!」
「はいはい、誰かに負けでもしたのかい?」
「うぅ、まさか、あんな、馬鹿に……!」
「もー、常に一番じゃなきゃヤダとか、君は子供かい」
「だってあのギルベルトに負けたんだぞ!」
「あー、うん、それは悔しいかもしれない」
「だろっ、お前もそう思うだろ!」
「で、君はそれを俺に訴えて何がしたいのさ」
「慰めろ!体で!」
「うわー、くたばれエロ大使」
「何だよ、お前まで、俺をっ」
「あーもう!別に慰めてあげないなんて言ってないから……」
「ホントかっ!」
「分かったなら、早く帰るよ」
「おうっ」
本家でのお掃除プロイセンおまけの悪友に滾った結果。悪友大好きです。
そもそもヘタリア再発の原因がプロイセンなので、プロイセン贔屓気味です。
はまった順が、プロイセン→親分子分→米英(今ここ)
あの子はやればできる子だって信じてる普女子です。(09/06)