「もし独立戦争前に米英がくっついていたら」で独立戦争直前の話。
あまり発禁はかけたくないのですが、ちょっと内容がアレかなと感じたので小学生以下の閲覧を禁止させていただきます(そもそもこのサイトに小学生って来てるのかな……)
気だるい朝。
肌寒さを感じてイギリスはシーツを引き寄せた。熱のないそれが素肌に触れる感覚が心地よい。夢うつつに夜明けを告げる鳥のさえずりを聞いていた。
カーテン越しの陽光が本国のものより明るく感じられるのは、本国が霧の街の称号に違わぬどんよりとした曇り空であることが多いためだろう。爽やかな朝の目覚めには程遠い国だと、自分でも思う。
それに比べて。
この国の朝焼けはひどく鮮やかで。
そんなところまでこいつは反映しているのだろうかと、寝ぼけ眼で隣で眠る少年の横顔を眺めた。
また幼さが抜けた。端整な顔立ちをするようになった彼をもう少年と呼ぶことはできないかもしれない。
それに一抹の寂しさを感じながらも、イギリスは愛おしげにその金髪を撫ぜた。可愛い恋人。
兄弟なんて括りを壊したいと感じたのは多分、イギリスが先。日に日に大人びていくその横顔に邪な感情を抱いた。それでも臆病な自分はそれを表に出すことなんてできなくて、結局はすべてをこいつに言わせる形になってしまった。こいつが、冷たく爽快な印象を与えるはずの青い瞳に高熱を滾らせて想いを打ち明けたあの瞬間を、きっと一生忘れない。
大好きな青だ。
目が見たいななんて思いながら、髪を撫でるついでにその整った目元や耳朶にちょっかいを出していれば、夜明け前の東の空に似た色合いの睫毛が揺れる。徐々に瞼が持ち上がって、黎明色から蒼天色に移り変わっていくその様は本物の夜明けの移り変わりを見ているようだった。
まだ眠そうな青色がイギリスを映した。それだけでふわりと破顔する。なかなか見れない笑顔に頬の熱が高まるのを感じながら、イギリスは笑いながらその顔にかかった髪を耳にかけた。
「おはよう、アメリカ」
「ん、おはよぅ」
笑みを深めながら、アメリカが腕を伸ばしてイギリスを抱き寄せる。それに素直に従って、イギリスはアメリカの厚い胸板に頬を寄せた。同性としての羨望もあるが、湧き上がる愛しさには代えられない。猫がじゃれつくようにぐりぐりと額を押しつければ、お返しとばかりに髪に頬摺りをされた。
ああ、幸せだな、倖せだよ。
こんな甘い時間が続けばいい。
そう願うのに、お前は違うんだな。
「ねぇ、イギリス」
「……なんだ」
それが死刑宣告と知りながら、穏やかに返事をした。アメリカのそれが、否定を許さないほどに、甘くて、にがい声色だったから。
「俺は……君から独立するよ」
穏やかな声のままそうアメリカが告げるから、無様に泣くことさえできなかった。予兆はあったその瞬間が訪れたなら、泣いて泣いて縋ってやろうと、そう決めていたはずなのに。
こんなタイミングで言うのは卑怯だ。一番無防備で、一番多幸感に浸っていられる瞬間。幸福な瞬間に、簡単に涙が溢れてはこなかった。
「……理由を、聞いてもいいか……?」
「聞いたら、納得してくれるかい?」
「わからねぇ。けど、聞きたい……」
イギリスは出てもいない涙をぬぐうようにその肌に目元をこすりつけた。心の望むままには溢れてくない涙がなくとも、心が傷口からしどどに感情を零していることを示したかった。
「けじめをさ、つけたいんだ」
「けじめ……?」
「うん、このままじゃ、いつまでも君の恋人にはなれないから」
「今だって恋人だろ……」
こうやって肌を合わせて、熱を伝えて、心を交わして。
これのどこが恋人でないというのだろう。
いったい何が足りないというのだろう。
なあ、俺には分からないよ。教えて、何を求めているの。
「俺たちは恋人だろ。でもね、周りの目は違う。俺が君の支配下にある限り、俺たちの関係は兄弟のままだ。そういうのは、嫌だなって思うんだ。君と対等になりたい。君と同じ国になりたい。君との関係を、みんなに認めてもらえるような存在になりたい。そんな理由じゃ、だめかな……」
「…………」
心に響く声を聞いてもなお、涙は一向に流れなくて、そのもどかしさにイギリスは強く強くアメリカに擦り寄った。このまま境界線など消し去って溶け合ってしまえればいい。けれど、擦り寄れば擦り寄るほどそこに肌を隔てた違う存在がいることを実感してしまって、イギリスはようやく目頭が熱くなってきた事を感じた。
そんなイギリスをアメリカは同じ強さで抱きしめてくれて、同じ感情を抱えていることを示してくれた。強くイギリスを抱きしめる腕の熱量とは裏腹な声で、アメリカはそれに、と続けた。
「このままじゃ俺ってヒモっぽくないかい?」
「ヒモって……どこでそんな言葉覚えてきた」
「え、フランスから」
「よし、次会った時殴る」
その声があまりに真剣だったためか、アメリカがくすりと笑う。それにつられてイギリスも笑えば吐息がくすぐったいのか、アメリカが身をよじって笑った。
ひとしきり笑って、目が合えば気まぐれのようにキスを交わした。
恋人同士の甘い朝なのに、どうしてこんなにも話す内容は重いのだろう。
「いいんだな?」
その青い瞳と向き合って、静かに問いかけた。先を促す瞳に従って、言葉を選びとり、紡いでいく。
「俺はお前の愛を疑うよ。いくらこうやって理由を聞かされてもだ。お前の独立を、俺は裏切りと取る。100年は立ち直れないだろうな。きっと後ろばっか見て過ごすだろうよ。お前のことも信じられなくなる。こうやってまたお前を愛せるまでにも、長い時間がかかると思う。それでもお前はいいんだな?」
「それは……俺の独立には反対ってこと?」
「当たり前だ。けど…反対したところでお前は止まらないんだろ? 好きにしろ。もちろん俺は全力でそれを阻止するけどな。けど万が一お前が独立を掴んだなら。それに伴う代償は、覚悟にしておけ」
「そんな覚悟、とっくにできてるよ」
そう言って、アメリカはイギリスの手を引き寄せてそれに頬を擦り寄せながら笑う。いつもと違わぬ笑みに、ついに涙が瞳から溢れたけれど一筋だけのそれはアメリカの大きな手によって拭われてしまった。自分のものよりもわずかに体温の高いそれに、アメリカをまねて頬摺りをする。
これが最後だ。
このままいつものようにアメリカに別れを告げて、イギリスは午後の便で本国に帰る。それから程なくして、戦争が勃発する。こうやって抱き合っていられるのも、こうやって言葉を交わせるのも、こうやってキスができるのも、これが最後。
けれど、その瞬間が、訪れてしまうまでは。
「愛してるよ、アメリカ」
「俺もだよ、イギリス」
いつものように笑いあって、いつもより少しだけ多く甘いキスを繰り返した。
喪失の痛みは不回避だと、いとしい人は澄んだ瞳で語る。
それでも君を傷つける道を選んでしまうことに、心の中でごめんと告げた。口に出したら、きっと、いや、絶対怒られる。
けど、ごめん、ごめんなさい。
謝らない代わりに、約束を違えないことを誓うから。
血を流す傷跡が塞がるまで。
折れた心が立ち直れるまで。
君にもう一度信じてもらえるように、君を愛し続けると誓うから。
どれだけ長い時がかかっても。
幾千の痛みと引き換えに、永劫の愛を、貴方に。
他の方の思い描くものから斜め75度下を行く解釈は健在です。
比較的甘いシチュエーションなのに会話がすごく重いって言う……
こんな雰囲気と会話がかみ合ってない米英が好きだ。
ちょっと苦手な方もいるかなぁとも思ったんですが、書いてる時はすごく楽しかったです(12/06)