相変わらずの日本式教育システム。海外の大学受験の方法なんて分かんないよ!
Side : Arthur
『明日からいよいよ国立大学の前期試験が始まります』
偶然つけたテレビの中で、ニュース番組のキャスターが微笑を崩さないままにそう言った。
他の番組にチャンネルを回そうとしていたアーサーは、その言葉に思わず手を止めて画面を凝視した。
『前期試験』
それはアーサーにとっても関わりがあったかもしれない言葉だったから。
アーサー・カークランド。高校3年生。
彼もまた受験生だった身だ。
なぜ過去形なのかといえば、去年の夏にAO入試を受けて合格が内定しているから。
コツコツと勉強を続けてきたし、点数稼ぎのつもりは全くなかったが3年間生徒会役員を務め上げたおかげもあるのだろう。つまりは積み上げた努力の結果だ。
ひと足早く受験戦争から離脱したアーサーだが、決してぐうたらと自由登校期間を過ごしているわけではない。
元生徒会長として卒業式で答辞の読み上げを行うからそのための準備に、予算折衝真っ盛りの生徒会本部の手伝い、それから学力が落ちないようにと学校で行われている二次対策にも時折潜り込んでいる。
アーサーのような少数派を除いた多くの受験生にとっての本番はすでに明日に迫っているのだ。
アーサー自身AO入試で落ちたら受けるはずだった試験だが、どこか他人事のような感じがしてしまう。
(あ、髭に呪いかけるの忘れてた)
テレビを眺めながらそんなことを思い出した。
嫌がらせに腹痛を起こす呪いをかけてやろうと思っていたのだ。今からでも遅くはない。テレビを見終わったら呪おう。
そんな物騒なことを考えていたアーサーは
「ぶはっ!!」
切り替わったテレビ画面に思わず噴き出した。
テレビは先ほどから見慣れた駅の映像に切り替わっている。新幹線を使って県外へと受験に向かう受験生たちを取材しているのだ。
そして今流れている映像には、見知った顔が映っている。
アルフレッド・F・ジョーンズ。アーサーと同じ高校、理系クラス一の目立ちたがり屋。
クラスが違うのに顔と名前が一致する程度には密な付き合いだが、文化祭で無茶な企画を断行しようとするアルフレッドを断固阻止しようと激突しまくったという、親密とは決して表現できない関係だ。ちなみに二人が激突したのは何も文化祭だけではなく、事あるごとに何かと言い争いをしている。
お互いに嫌悪感を抱いているゆえの対立ではなく、純粋なる意見と主張の相異のせいだ。アーサー自身少し堅物である自覚があるから、底抜けに明るい性格は……羨ましかったりもする。
唇を拭いながら、アーサーは咄嗟にテレビの録画ボタンを押した。今の家電って便利。
『もうすぐ桜も咲きますが、受験の桜は咲きそうですか?』
『咲くに決まってるじゃないか。絶対に咲かせてみせるさ!』
これで落ちたら証拠ブイを見せながら笑ってやろう。
彼のトレードマークともいえる満面の笑顔を眺めつつそんなことを思う。
アルフレッドの性格を考えればこういったインタビューを受けたがることもうなずけた。
やがて数人の受験生のインタビューが終わって、番組もニュースへと切り替わる。
まだおさまらない笑いに肩を揺らしながら、アーサーは録画を停止した。
人間、驚いた次の瞬間には笑いだしたくなるものだ。
ひとしきり笑った後、アーサーはどうせだからと携帯を取り出した。ニュースを見たことを伝えてやろう。小さな嫌がらせだ。
アドレスは既に押収済み。電話帳からアルフレッドの名を探して新規メールを作る。
ニュースを見たことをからかい交じりに書いて、それからさんざん悩んだ挙句に受験を応援する言葉も添えた。
「よし、送信、っと」
(……応援は、やっぱり必要なかったな)
そんなことを思っても後の祭りだ。そもそも事務的なメールしかしたことがなかったのに突然メールが来たら、向こうもさぞかし驚くだろう。それが明日に響いてしまうかもしれないな、と考えると少しだけ申し訳なくなった。
携帯の画面は既に送信画面から待ち受けへと切り替わっている。アーサーはそれを乱暴に閉じてテーブルの上に置いた。
腹いせのようにカチカチとチャンネルを回す。
(あ、髭に呪いかけねぇと)
Side : Alfred
明日は国立大学の前期試験。もちろん本命だ。
昼過ぎに受験会場近くの駅に着いたアルフレッドは、数時間後、某ドーナツ店でおかわり自由のカフェ・オレと大量のドーナツを目の前に置いて勉強にいそしんでいた。
ホテルに一度はチェックインしたものの、照明が暗過ぎて勉強どころではなく、思わず飛び出してきたのだ。
このままぎりぎりまで粘るつもりでいる。
予備校の自習室を借りることもできたらしいが、どうしてもあの勉強をするためだけの空間にはなじめない。むしろこういった少し雑音が聞こえるくらいの方がはかどるのだ。
時計の長針が3回りしたころ。そろそろ店員の目が痛くなってくる。敢えて空気を読まずにここまで粘ったが、そろそろ限界のようだ。
アルフレッドは最後にカフェ・オレをもう一杯飲みほしてから店を出た。
ホテルは一人部屋を取った。
誰かと相部屋の方が安く上がるし、同じ大学を受けるクラスメイトからの誘いもあったが、どちらかといえば自分が相手に迷惑をかけそうだったので断った。誰かが同じ空間にいたら話しかけずにはいられない性質だ。
軽くシャワーを済ませてからずっと鞄に入れっぱなしだった携帯を開いた。
「うわっ、」
着信5件。
普段はメールが着たらすぐに開いてしまうから、ここまでたまることは珍しい。
うち4件は母親から。
(あー、連絡入れ忘れてた)
駅に着いたら連絡を寄こすように厳命されていたのに、すっかり忘れていた。時を追うごとに文面が簡略になって行くのが恐ろしい。
アルフレッドが慌てて返信すると、『連絡よこさないと何かあったのかもって心配になるでしょ!』と返ってきた。本当に心配していたらあんな脅迫めいた文面は送らないと思う。
残る1件は、fromアーサー・カークランド。母親とは違った意味で恐ろしくて開けられない。
彼からのメールなんて、アルフレッドにとって不都合なことしか書いていない。大体なんでこんなタイミングで。
そんなことを考えていたら今度は内容が気になってきた。怖いもの見たさとはこういうことを言うのだろうか。
アルフレッドは思い切ってメールを開いた。
From:アーサー・カークランド
Title:無題
夕方のニュース見たぞ
受験前に何やってんだお前
あんなこと言っといて落ちでもしたら
思いっきり笑ってやるから覚悟しとけ
(ニュースって、あれのことか……)
アルフレッドは出発前に駅でインタビューを受けたことを思い出した。確かに落ちたらとても恥ずかしいセリフを言った気がする。
(あれ? でもあれってローカル局だったような)
夕方のニュースを見れるということはその時点でアーサーはまだ地元にいるということだ。慎重な彼が当日入りをするとは思えないし、夕方遅くに地元を発つことも多分ないだろう。どうやら国立は受けないようだ。
(じゃあ私立? あ、でもこないだ生徒会長が内定取ったって話を聞いた気も……どこ受かったんだろう)
つまり彼は地元で悠々と過ごしていると。少し殺意がわいた。
成績優秀、品行方正で生徒会長を務めた彼が推薦をとれないわけがないことも、理解しているけれど。
メールの文面を眺めながら考え込んでいると、ふとメールにまだ続きがあることに気がついた。
カチカチと下にずらしていくと、ずっと白い行が続き、やがて画面が真っ白になってしまった。それでも根気良く下へとページを送って行くと、やがて文章が現れた。
それはたった一文だけ。
試験、がんばれよ
思わず携帯を閉じた。
十分に深呼吸をしてからもう一度携帯を開く。
文面は変わらない。
「ああああああもうっ!!」
(どうしろって言うんだい!)
たった今、恋に落ちる音がした。
こいつら進学先同じなので、米が何かと英にちょっかい出して最終的には無事に米英で落ち着くと思います。
24日に上げたかったのにダラダラしてたらもう今日試験日だよ! (02/25)