人恋しい季節です

疲れた。

思わずついた溜め息は、意図した以上に重たいものになってしまった。
湯船に浸かったせいだろうか、身体がひどく重い。日頃の疲れがどっと出てきたようだ。
東洋の友人の影響で湯船に湯を張るという行為に戸惑いは覚えなくなったが、日常的な習慣にはなっていない。風呂に入るという行為はそもそも疲れやすいらしい。慣れてなければなおさらだろう。

どうしてそんな慣れないことをしたのかといえば。
この家の家主が入浴の習慣をいたく気に入っているからだ。週に何度かは風呂に入るらしい。
髪を乾かしてリビングに向かえば、当の家主がソファでゲームに熱中していた。先に風呂を済ませたアメリカは、俺が戻ってきたことにも気付かずに掌の中のゲーム機を見つめている。
大西洋を越えてはるばる会いに来た恋人に対してこの態度。もう一度溜め息をついた。
息を吐くたびに、どっしりと体が重くなる。

アメリカに声をかけようとして、やめた。
声をかけるのまで億劫で。
ふらふらとソファに近づいて、アメリカの隣に腰を下ろした。

「あれ、もう上がったの?」
「おぅ」

ふわふわと返事をした。
まばたきのつもりで目を閉じたら、もう一度目を開けるのが面倒になってしまった。
力の入らない体を控えめに隣に寄せる。

「イギリス、眠いの?」
「眠いっつーか、だるい……」

目を閉じていると楽だが、睡魔とは違う。
確かに山積みだった仕事のせいで慢性的な睡眠不足ではあるし、飛行機での長時間の移動も体に負担はかかるが、その程度で体調を崩すほど軟な鍛え方はしていない。
貧弱だとからかわれることは多いが、これでも軍服に袖を通しているのだ。どんな環境でも体を休めることはできる。
だから、この倦怠感は身体的なものではなくて。

何も言われないのをいいことにアメリカに更に体重をかけた。
体勢的にも楽だが、何より接した肌から服越しに伝わる熱が心地よい。息を吐くと、胸にかかる重みが少し軽くなったような気がした。
アメリカの肩口に額をぐりぐりと押しつける。

「イギリス……?」

戸惑ったような声が降ってくる。
自分でも柄でもないことをしている自覚がある。ひたすらに俺を甘やかそうとするアメリカを、いつもは払いのけてばかりだ。

「疲れた」

そう訴えて何かをしてもらいたかったわけじゃない。
ただ口に出したかっただけだ。
嗚呼、でもそれはこいつからの何かを期待してることに他ならないんじゃないだろうか。 何も求めていないつもりだけど、こいつが何もしないわけがない。それを知っていながら声に出すという行為は、反応が返ってくることを前提としている。
なのに、慰めてほしいのか、労わってほしいのか、甘やかしてほしいのか、自分でもよくわからない。

「まったく」

後頭部に手を乗せられて、ぐいと引き寄せられた。
ぎゅぅと乱暴に頭部を抱きかかえられる。
ああ、いいな、これ。少し痛いけど。

「なんか、眠くなってきた……」
「寝ていいよ。寝室に運んであげるから」
「んー…」

それも悪くない。そう思う反面そこまでしてもらうのもどうなんだと思ってしまう。これでもこっちの方が数倍は年上なのに。

「君、面倒くさそうなこと考えてるだろ」
「うっせ」
「大体君、年だとかいちいち考えてたら甘えられるのフランスくらいだぞ」
「……やめろ、鳥肌立った」
「うん、俺もちょっと殺意湧いたから絶対やらないでね」

ぎゅうと抱きしめる力が強くなる。
やきもちだろうか。だとしたら、

思わず口元がゆるんで、誤魔化すようにアメリカの胸に額を擦りよせた。
まだ疲労で体は重くて、思考も鈍いままだけど。
ここは、安心できる場所だ。

「悪い……寝る、」
「おやすみ、イギリス」

少しだけ高い体温と静かな息遣いがただ心地よかった。











2012/01/20 pixiv
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