海賊殿に本領を発揮させてみた。
「夜の獣」よりもエグイ事になりました。
自己責任で、お願いします。
気分を害されたとしても管理人は一切責任を負えません。うぅ、15禁にしたい……
あっ、冒頭だけです。どうしてもダメな方は何とか回避して続きを読むという方法もありです。
地下から凄惨な悲鳴が聞こえてくるたびに、アルフレッドはびくりと肩を揺らした。
打撲音、呻き声、罵倒、何かの折れる音、悲鳴、罵り声、何かの砕ける音、懇願、何かの潰れる音、悲鳴、嘆願、何かの引き裂かれる音、悲鳴、命乞い、打撲音、悲鳴、悲鳴、命乞い、悲鳴、悲鳴、悲鳴、命乞い、悲鳴、悲鳴、嘆願、懇願、悲鳴、命乞い、悲鳴、命乞い、悲鳴、悲鳴、悲鳴、悲鳴、悲鳴、悲鳴、悲鳴、悲鳴、悲鳴、悲鳴、悲鳴、悲鳴――――――――――。
そして。
一際甲高い、絶叫―――――――。
がたんっ、と跳ね上げ式の戸が開く音がした。そのすぐ横に座ってたアルフレッドの肩が大袈裟に跳ねる。
80センチ四方ほどの出入り口からひょこりとアーサーが顔を出した。興奮のためか、わずかに目尻が赤い。
例えば、その表情を見たのがベットの中であったりしたならば、それはとても色っぽいものであるのだが、すべてが頬に飛び散った返り血のせいで台無しだ。
普段よりも3割増しくらい顔色のよいアーサーだが、その表情はどこか不満げだった。
もしかして、情報が聞き出せそうにないのだろうか。
「アーサー?」
声をかけても無視だ。
アーサーは床に手をついて地下にある体を引き上げた。その服にはべったりと鮮血が付着してる。怪我をしてる様子はないから、これ全部返り血か……。
濃厚な血の香りに頭がクラリとした。
「ああ! くそっ!」
アーサーがこれまた血にまみれた手で髪を掻きあげた。白い額と、淡い色の金髪が血に汚れた。
頭から血を浴びたような様子のアーサーに、アルフレッドが眉をひそめる。
「久々だから加減ができねぇ。うっかり殺しちまった」
お楽しみはこれからだってのに。
悔しそうに髪をかき乱す。おかげでアーサーの髪は金と赤のまだらになってしまっている。ギラギラとした瞳ばかりが目立つアーサーに眉間の渓谷を深くしながら、アルフレッドは地下を覗き込んだ。
逆さまの部屋が闇に沈んでいる。
「見ない方がいいぞ」
遅すぎるアーサーの警告。
アーサーから漂う血の臭いの比じゃない、纏わりつくような死臭の中に頭を突っ込んでしまったアルフレッドは慌てて地上に顔を出すと、襲い来る吐き気に必死で耐えた。
その様子にアーサーがからからと笑う。
「だからやめとけっていたのに」
また、厭な海軍時代の能力が発揮されてしまった。
アルフレッドは、一般人よりも夜目が利く。
あの一瞬で闇に慣れた目は、そこに浮かび上がった光景をしっかりと網膜に焼きつけてしまった。
血の海に沈む肉塊。
引き千切られた(切断面が剣のものではなかったから多分そうだ)腕と脚が在らぬ場所に転がり、その腕と足でさえ、バラバラにされているせいで判別がひどく難しい。削がれた両耳と鼻と唇、潰されて暗い影を落とす眼窩のなす顔立ちは、生前の面影を一つも残してはいなかった。胴体部分もきっと痣や切り傷だらけであろうが、血で真っ赤になっているせいで目立ったものを見つけることは出来なかった。その代わりに、腹部から引き摺り出された「それ」だけが異様に目立っていた。血の色よりも一段濃い赤をした、ぶよぶよとしたそれ。当分は、羊の腸詰は食べられないなと思った。死因は……失血死だろうか?いや、肩と太腿は何かで縛ってあったから、見た目ほど血は出ていないのかもしれない。痛みによるショック死の可能性のほうが強そうだ。
あれだけの間に、それだけのことを認識してしまう頭が憎らしい。切断面が、だとか、決定的な死因は、だとか、思考は自動的にそちらへと流れていく。
嗚呼、厭な能力だ。
身体はこんなにも目一杯不快感を訴えているというのに、頭のどこかが醒めているのだ。自分がどこか破綻しているような気がして、言い様のない恐怖に駆られる。
かたりと感じた悪寒に、アルフレッドは自らを抱きしめるように腕を組んだ。
その惨劇を、一人で作り上げたのが、目の前にいるこの人。
金髪に、真っ赤な鮮血が映えるな、と馬鹿なことを考えた。
どろりと色を濃くした緑の瞳が、爛々と輝いている。何かが、違う。
血の匂いに酔ったようにけらけらと笑うアーサーを、アルフレッドは無言で抱きしめた。
「アルフレッド?」
ようやくあの軽薄な笑いをやめたアーサーが、こてんと子供のように首をかしげた。
瞳に理性が戻ってくる。違う、そもそもこの人は理性なんて失っちゃいない。
誰よりも正常な判断で、誰よりも歪みない意思で、ひとをころせる人。
なのに、何故だろう。
違う。何かが、違う。
嗚呼、それはきっと、
ふと思い当った考えは、すべてを答えてくれるような気さえした。
瞳の色が、違うんだ。
ここは、港町の外れにあるアーサーの隠れ家だった。
各地に、アーサーはこのような隠れ家を持っていた。そこに蓄えてあった金貨などを使って、現在はアーサーの仲間探しの旅をしているわけだが。
アーサーが地下室を片付けている間、アルフレッドは隠れ家近くの岩場で海を眺めていた。アーサーを抱きしめたせいでアルフレッドまで血で汚れてしまい着替えたこともあって、心はやけにさっぱりとしていた。
見上げる空は快晴。
吹き込む爽やかな潮風が、心にわだかまったものを洗い流してくれるような気がした。
拷問したのは、最寄りの港街で見つけた海軍将校だ。あの、ふざけた賭けごとに参加していた将校。
驚いたことに、アーサーはあの賭けごとに参加した軍人の顔をすべて覚えているらしい。全員ただで済むと思うなよ、とあくどい笑みを浮かべていたが、まさかこのような形で報復をするとは。
アーサーが捕らえられてから3年間。その間に起こったことを慮れば、その行為は行き過ぎているとは言え、不当とは言い難い。
でも、とアルフレッドはあの時のアーサーの瞳を思い浮かべた。
色が、違う。
生にしがみ付く貪欲な瞳はあれほど心を惹き付けたのに、血に酔って淀んだ緑にあの時の輝きはなくて。
それが、酷く気に入らない。
そんな目をするアーサーも、そんな目をさせる原因を作った将校も。そして、あの日の色を取り戻してやれない自分すらも。
「アーサー、遅いな……」
ぽつりと呟いて、アルフレッドは後ろへと倒れ込んだ。背がごつごつとした岩に当り痛いが、このほうがよく空が見える。
肉片をかき集めたものを処分すると言って海の方へ降りて行ったアーサーは一向に帰ってこない。
そう言えば、拷問で聞きだしたことの詳細も聞いていなかった。アーサーの仲間の情報を引き出すために拉致ってきた将校だったが、何か得られたことはあったのだろうか。
あればいいとは、思うけれど。
もう彼を独占はできないのかと思うと、少し残念な気もする。
海賊なんて重苦しい肩書を剥いてしまえば、そこにいるのはなかなか素直になれない不器用な青年だ。その様が可愛いと思えてきているあたり、そろそろ重症だろうか。
「ただそれだけ」なんて言い訳はもうすぐ使えなくなってしまいそうで。
あのうつくしい目をもう一度。
それだけだった行動理由は、どんどん変化していく。
彼の笑顔を、できればずっと。
でもやっぱりあの目は、どうしても見たいんだよなぁ。
己の執着に溜め息をついたアルフレッドは、肺の中身をすべて吐き出す一寸前で呼気を止めた。
露出した肌がピり、と痺れる。だが、もちろんそれは錯覚にすぎない。これは、誰かの視線だ。
残りの空気を吐き出しながら、周囲の気配を探った。後方の岩陰に、闇がいる。身動き一つしない闇が、その空間に滞っている。
あくまで気づいていないふりをつき通しながら、さらに相手の出方を見る。闇が、じり、と揺らいだ。
瞬間。
闇が突然降ってくる。跳躍の瞬間は感じ取れなかった。そのことにひやりと冷たいものが背を伝う。
避けるとすれば前方に飛ぶしかない。しかし、その動きは多分向こうも予測済みだろう。
ならば。
頭の下に敷いていた手を岩場につき、腕力に任せて体を持ち上げた。浮いた自分の体を後方に飛ばすように腕を伸ばす。
ちょうど後方に一回転するような形で闇を避けた。
アルフレッドが横になっていた岩場に闇が降り立った。
闇は、日の光のもとに出ても闇だった。
珍しい、漆黒の髪がさらりと流れる。その奥に覗く切れ長の瞳も真黒い黒曜色をしていた。手には見たことのないデザインの片刃の短剣が握られている。
闇が微笑う。下卑いた笑いでも、蔑む嗤いでも、見下した哂いでも、アーサーの様な皮肉るような笑いでもない。
口の端を持ち上げるだけのそれは、微笑うと表現するのがきっと一番相応しい。
「おや、ただの人かと思えば……その身のこなし、海軍の狗でしたか」
「もう足洗ってるけど、ねっ」
アルフレッドが言いきる前に闇が動いた。疾い。
不安定な足場をものともせず、むしろ最大限に生かしながら攻撃を仕掛けてくる。
こちらの話を聞いてくれる様子では、どうやらないらしい。
相手が誰だか分からないままに戦うことほど厭なことはないのだけれど。理不尽に殺されるのは、もっと嫌だ。
ならば、応戦しかないだろう。
丸腰なのがちょっと心許無いけどっ、とアルフレッドは闇が付きだした短剣を払いのけた。闇は素早く剣を反対の手に持ち替え、逆袈裟に切り上げてきた。
ちょっ、両利きとか反則なんだぞ!
迫る切っ先をバックステップで避けて、アルフレッドは闇から距離を置いた。疾い、が、離れていればある程度の動きは見える。
足場となる岩場は限られている。自分と相手の間にある岩の配置。それだけでも相手の攻撃パターンの予測ができる。
闇がゆらりと動いた。右だ。
浮かび上がる相手の攻撃ライン。避けるのは少しきついな。
一瞬の間に目前まで迫った闇をギリギリまで引き付けて、攻撃を避けるふりをして体勢を落とした。あの短剣のデメリットは、リーチが短いことだ。案の定、アルフレッドに攻撃を届けるために闇は最後の一歩を大振りにする。
その足を掬って後ろに投げた。ぐらりと体勢を崩したのは体重の変化で分かったが、逆に手を踏み台に飛ばれてしまった。
素早く振り返ると、背後の岩に闇が降り立ったところだった。幾つも岩が積み重なった、不安定すぎる足場。その頂上のわずかな空間に闇は足をそろえて直立している。
「いきなり攻撃される謂われなんてないんだぞ!」
実はアーサー関連でいくつもあったりするのだが、そこは建前という奴だ。
「貴方がここにいる。それだけで攻撃理由は十分です」
たんっと闇が岩の頂上から飛んだ。積み重なった岩が一つも崩れなかったことに、状況も忘れてアルフレッドは口笛を吹きたくなった。
だが、実際にはそんな余裕があるわけもなく、闇の攻撃をあえてギリギリで避けた。
確かに疾い、だが。
パワーなこちらの方が上!
少しばかりの傷は覚悟の上だ。刺し違えるなんて言い方は少々大それているが、相手の攻撃を受ける覚悟で打ち込めば、勝てる。
そのたった一度の機会を狙って、じわじわと相手の攻撃を分析していく。見えてくる規則性と、攻撃時の癖。
今だ!
自分への被害は最小限に。攻撃は相手の急所へ。
ぱしんっ、と
繰り出した拳は空気の破裂する音に阻まれた。
攻撃を受け止めたのは、闇じゃない。アルフレッドと闇の間に割り込んだその人は、アルフレッドの拳と闇の短剣を綺麗に受け流して、止めていた。
「何やってんだ! お前ら!」
叱咤をするその人が、戻ってきていたことにすら気が付かなかった。
付着した血を洗い流したせいでまだ湿っている金髪を振り乱して、激高した色の瞳を見せる彼は、たぶん本当に怒っている。
「アー、サー……?」
「アーサーさん……?」
同じ人の名前を口にして、アルフレッドと闇はぽかんとした表情で見つめあった。
「えっと……、どーいう事?」
アルフレッドでも闇でもアーサーでもない、第四者の声がその場にいるすべての人の心を代弁していた。
「こっちが、アルフレッド。アルフレッド……E? S?」
「F。アルフレッド・F・ジョーンズ」
「ああ、そうだった。アルフレッド・F・ジョーンズ。俺がここにいるのは大体こいつのお陰だな」
「で、こっちが本田菊と髭……じゃなかった、フランシス……ボン?ボル?」
「ボヌフォワ、ね。坊ちゃん」
「ああ、そうだった。フランシス・ボンクラ」
「だいぶ違う!!」
「こいつらが、俺の船の元船員」
「そんな、アーサーさん、元なんて言わないでください。私たちは今でもあなたの船の一員のつもりでいるんですから」
なんて会話を交えて。
どうやら状況を整理すれば、菊とフランシスはこの3年間アーサーがいつ戻って来てもいいようにと、船出の準備をしながら待ち続けていたそうで、近頃アーサーが脱獄したといううわさを聞き、脱獄後に彼が立ち寄るであろう隠れ家を確認して回っていたそうだ。
アーサーは海岸で魚に餌をやっている時に海岸線を確認していたフランシスと会い戻ってきたところ、アルフレッドと菊が争っているのを見てあわてて間に割って入った、ということらしい。
「で、菊は俺が隠れ家を探しに来た軍人と勘違いしたわけだ」
「はい、まことに、なんといってお詫びしたらよいか……、アルフレッドさんはアーサーさんの恩人でしたのに…………かくなる上は切腹しか……!」
「ちょっ、そこまでしなくても!」
いきなり腹に短剣をつきたてようとする菊を必死で止めて、アルフレッドはアーサーに向き直った。
「よかったね。仲間に会えて」
この3年間、ちゃんと待っててくれたんだ。いい仲間を持ったね、君は。
アーサーが以外にも素直に顔を綻ばせた。ああ、と穏やかな声で言う。
あの苛烈な瞳も好きだけど。こんな、凪いだ瞳の色も好きだなぁなんて、そんなことを思った。
「船も、準備してあります。他の船員も、各地であなたの声が掛るのを待っている」
「坊ちゃんが一声上げれば、いつだって出航できるよ」
アルフレッドは見たことのない彼の船と彼の船員へと思いを馳せた。
彼が選んだ人たちだ。きっと、一癖も二癖もあって、けれど優しい人たちなんだろう。
もうすぐだ。彼の誇りが海原にはためく日も。
「ああ、今すぐにでも、……」
「坊ちゃん?」
「アーサーさん?」
彼らしく、高らかに出航を宣言すると思いきや、アーサーはその声を上げることをためらうように口をつぐんだ。
アーサーの視線の先にいるのは、青い目の青年。
「アーサー?」
視線を向けられたアルフレッドがきょとりと首をかしげる。
アーサーの目がゆらゆらと揺れる。ああ、これは知ってる。抱いてと言ってくる、あの彼の目だ。
これは、彼の不安の表れだから。それを取り除くように。アルフレッドは優しく笑った。
「どうしたの?」
「あの、アルフレッド、そのだな……」
「ん?」
「一緒に、来てくれないか、俺の船に。正式に、お前をスカウトしたい」
切れ切れに。
不器用で、自分の心を表現することを酷く苦手とする青年は、ゆっくりと、けれど一つの欺瞞も挟まずに。
己の本心を伝えた。
その申し出にアルフレッドは眼を丸くした。なんでそんな事を訊かれるのかが分からないと青い目が訴えている。
「何言ってるんだい、君」
「う、嫌なら……」
うっかりネガティブ思考が発動しかけたアーサーを封じるように。
「もちろんOKに決まってるじゃないか!」
愛しい愛しいかの人に抱きついた。
細身の体を腕の中に閉じ込めてその反応を見れば、みるみる顔が赤く染まっていくのが見て取れた。
ああ、やっぱり可愛い。
「は、放せよ、ばかぁ!!」
腕から抜け出そうともがきながら叫ぶ声は、けれどどこか甘くて。
「おやおや」
「なんか、また賑やかなのが増えたねぇ」
「よいことだと思いますよ。素敵な青年です。強さは、私が保証しますよ?」
「それはなんとも心強い」
じゃれるような二人を見て、フランシスと菊が笑い合う。
強くて、誇り高いかの人の、高らかな宣言があがる。
「さぁ!出航だ――――!!」
ソーセージが食べにくくなったらごめんなさい。
海賊船長本領発揮の回でした。拷問+戦闘。この話では船長最強です。
この4人は書きやすくて楽しいですね。お兄さんの扱い酷くてすみません。でもいつっもこんなもんです(08/17)