※北欧夫婦が出てきます。
「これがイギリスの野郎の猫ですか!?」
やたらとキラキラした目でこちらを見る、彼によく似た眉の少年。
嫌な予感がした。
シーランドが訪ねてきたのは、イギリスが昼過ぎの紅茶を用意し始めたころだった。
現在はスウェーデンとフィンランドの家で世話になっているはずの少年は、両親代わりのその人たちと喧嘩をしたと、はるばるこのイギリス宅までやってきた。突然の訪問にイギリスが目くじらを立てたのは言うまでもない。
さっさと帰れ、絶対に帰らないですよ、その応酬だ。
そんなシーランドとイギリスが揉めるその声に安眠を妨害される。何の考えもなくイギリスのもとに逃げこんでくるシーランドにも、それに強く出ようとしないイギリスにも、なぜだかイライラとした。
とりあえず、文句の一つでも言ってやろうと寝床であるカゴを出たのがいけなかった。
「そう言えば、イギリスが猫を飼い始めたって聞きましたですよ!見せろですよー」
どこからそんな情報が伝わったのか。
今のところ知り合いの前に顔を出したのは日本の時だけだ。おそらく日本がフランスと雑談しているときにでも漏らして、それをフランスが面白がって広めたのだろう。
とりあえず会ったら髭潰す。
と、それはさておき。
勝手に猫探しを始めたシーランドと、カゴから出た俺がばったり会ってしまい、冒頭に戻る。
「触ってもいいですか」
「あ、ああ、かまわねぇけど」
なんでそこで許可しちゃうんだい、君!
ランランと目を輝かせたシーランドがにじり寄ってくる。小さな子供がこれほどまでに恐怖の対象になるとは思わなかった。
「さあ、シー君が直々に遊んでやるですよー!」
いきなり飛びかかられて、尻尾がぶわりと太くなった。
「にゃぅ」
「うわっ」
伸びてきた手が髭を引っ張る、毛並みを乱す、肉球を揉む、耳を捻る、尻尾を掴む。
「なぅ」
「いたっ」
「にゃぁ」
「やめっ、」
「にぃっ」
「やめろって」
「おい、シーランド、もっとやさしくだな、」
イギリスが控えめに止めに入るが、興味津津のシーランドの耳には届かない。
流石に我慢の限界だった。
俺はおもちゃじゃないんだぞ!!
「にゃぁー!!」
「やめろって言ってるだろ!」
シーランドの手を振り払って、慌てて距離を取った。
ソファに腰掛けて一部始終を見守っていたイギリスのもとへと逃げこむ。その膝に飛び乗って、たしたしとその太ももを叩きながら文句を言った。
「にゃぁ、にゃあ!」
「もっと早く止めてくれよ!」
「悪かったって、」
宥めるようにイギリスが頭をなでる。細い指が乱れた毛並みを整えるように流れた。
「シー君嫌われちゃったですか?」
しょんぼりとしたシーランドがこちらを見る。怖がらせないようにしているつもりなのか、それ以上距離を詰めてこない。
「嫌がってるんだからやめてやらないとダメだろ。ほら、こんな時はどうするんだ?」
「う、ご、ごめんなさい、ですよ……」
「だってよ」
そう言って、イギリスが俺をシーランドの方に向ける。まったく、しかたないな。
「にゃあ」
「今回は許してあげるよ」
「許してやるってさ」
イギリスが俺の前足を取ってひらひらと振る。シーランドがイギリスの言葉に食いついた。
「イギリスは猫の言葉がわかるですか!?」
目をまあるくして驚く子供に、イギリスが穏やかな表情を作った。
「さあ、どうだろうな」
どこかで見たことのあるような顔だなと思ったら、同じような質問を幼い自分もしたことを思い出した。子供の夢をそのままに、彼はからかうように、けれど不可思議に微笑んで見せるのだ。
ふと、イギリスが逆さにこちらを覗き込んだ。
「にゃあ、なんてな」
くすりとイギリスが笑った。あー、今君すっごく可愛かったぞ……。赤面してもばれないのが猫のいいところだ。
と、イギリスの家のドアベルが鳴る。
こんな状況で訪ねてくる人はただ二人だけ。
イギリスの膝を飛び降りて、シーランドに近づいた。イギリスは玄関へと向かう。
すぐに、シーランドを呼ぶイギリスの声が返ってきた。
「にゃぁ」
「行きなよ」
「でも……」
「に!」
「素直になることも大切なんだぞ!」
と、シーランドを元気づけてみたが、俺が言えたことじゃないか。
シーランドを促して、玄関へと向かう。ホールには予想に違わぬ二人が立っていた。
「シー君!心配したんだよ」
フィンランドが膝をついてシーランドと目線を合わせた。シーランドはまだ戸惑うようにイギリスを見上げた。
「こんな時は?」
先ほどと同じ言葉を繰り返すイギリスに、シーランドは決心したようにフィンランドとその後ろに立つスウェーデンを見上げた。
「あの……、ごめんなさいですよ」
「うん、だからもう勝手にどこかに行っちゃだめだよ?」
「分かったですよ!」
フィンランドがモイ、と微笑んだ。スウェーデンもわずかに、本当にわずかに相貌を崩す。
「けぇっぺ」
スウェーデンの言葉にフィンランドが立ち上がる。その手でシーランドの右手を握って。
完璧な家庭だよなぁ、と思った。怖いけど頼りになる父と、優しい母(男だけど)と、あと白い犬も飼ってるんだっけ……
ふと。
シーランドのいる位置に、自分がいる可能性がなかったわけではなかったことを思い出した。
ニュースウェーデン。地名は変わってしまっているが、確かに彼らと己が関わり合った証拠。
人の流れが少しでも異なれば、父と母と呼んだかもしれない人たちを見上げて、なんとも奇妙な気分に囚われた。
「迷惑かけだなぃ」
「いや、」
腕を組んでイギリスが少しだけ寂しそうな表情をにじませた。多分、気づいたのは俺だけだろう。
シーランドを挟んでフィンランドとスウェーデンが帰って行く。
ああ、ああやってイギリスと並んで帰ったなあと、あまり好きではないはずの懐古をした。
改めて紅茶を飲むイギリスの膝の上でまどろみながら、シ−ランドがこの家を訪れたときの苛立ちを思い出した。そんな何も考えずにやって来て、とイライラした。
多分それは、何の考えもなく逃げこめる場所がある、そのことがうらやましかったのだ。その逃げる先が彼だったから、なおさらに。
俺には、そんな場所なかったのにと。
悪夢を見ても慰めてくれる手などない。泣きたくなってもうずめられる胸などない。
あの頃、彼との間は遠すぎた。
どれだけ自分が彼を慕おうとも、彼が国である以上ずっと大陸にいることなど不可能だったし、呼んだからといってすぐに飛んできてくれることなど無理だった。
あの頃の俺がどれだけ手を伸ばしても指先を掠めるだけだったものを、君は両手いっぱいに抱えているのに。
庇護してくれる手があること、優しく見守る声があること、その尊さを、君は知らなすぎる。
幼いシ−ランドに嫉妬なんて、とは思うが仕方ないじゃないか、彼のこととなると大人でいることなんて無理なんだから。
この姿でいるときくらい、猫として素直でいられるときくらい、君を独り占めにさせてよ。
呟きは、やはり猫の鳴き声で、それでも届けばいいのになと思った。
イギリスの太ももをたしたしするのはさぞかし気持ちがよかろう、アメリカ。
北欧夫婦好きです。北欧家族も好きです。てかスーさんとフィンが大好きです。
後半の米の独白は、やっぱり付きっ切りで子守りは無理だよなぁと思ったことから。
ねこたりあの中でキャラが一番出た回になると思います。(07/23)
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