抱きしめた日

14日目

2週間。

それが用意した砂時計の砂が落ち切るまでの時間だった。
この砂が落ち切る前に彼への思いを断ち切らなくてはいけなかったのに。
折角用意した砂はただ浪費されるばかりで……

わずかに残っていた砂が、落ち切った。



ぼんやりと意識が浮上した。
ゆるやかに瞼を持ち上げたその先にいたのは、

「イギリス……?」

この2週間、見上げ続けた人の顔が目の前にあった。
覚醒し始めた意識が急速に事態を吸収していく。
イギリスの顔の後ろには、これまた見慣れたイギリスの家の天井。
頭の後ろにはなにやら柔らかいのにどこかゴロゴロとした感触があった。

え、っと……これは……

膝枕されてる……?

それを認識した瞬間に跳ねるように身を起こした。イギリスが慌てたように身を反らす。
座っていたのは上質な革張りのソファだった。あの日、俺が目覚めた場所。
なのに、あの日とは全然景色が違う。
あの日、ソファから降りなければ確認できなかった部屋の全貌は、思っていたよりもかなり手狭だった。古めかしい家具も、そこに飾られたアンティークの食器も、ソファからさほど離れた位置にはなかった。

横に視線をやれば、びっくりした表情のイギリスがいる。褪せた金髪に明るい緑の瞳。間違いなく彼だ。
でもおかしい。自分の目線と同じ高さに、彼の緑がある。

ばっと両手を見た。
肌色の皮膚。五本の指。大きめの掌。
間違えようもない、人の手だ。
ふさふさとした体毛に覆われた、爪の出し入れができて楽しい猫の手なんかでは、断じてなかった。

全身を確認した。
人の腕。人の足。人の身体。
頭に手をやってもさらりと髪が指を滑るだけで何もない。体を捻って後ろも確認したが、ジーンズからは何も飛び出していなかった。


もとに、戻った……?


「イギリス……」

何といえばいいのか分からないままに口を開いた。聞きたい事がいっぱいありすぎて、飽和する。
少しの間、何も言えずにイギリスと見つめあった。
が、イギリスの顔が歪んで、耐えきれなくなったのように笑いだした。
Why? 何が起こってるか分からない。

「お前、それ似合わねぇ」

ケタケタと腹を抱えてイギリスが笑う。だから!何のことだい?!
笑い過ぎて滲んだ涙を拭いながら、イギリスが自分の首を指差して見せた。
首……?

「まさか君っ!」

自分の首に手をやれば、つるりと滑らかな材質のそれが。フラッシュバックする、リボンをまとめなおすイギリスの姿。
ホントに結んだよ、この人!

首の後ろで結ばれたそれがどんな仕組みになっているかは分からないが、とりあえず引っ張ればとれるはず。そう思ったのに、これがなかなかうまくいかない。

「くそっ、大の男にこんなことやって楽しいのかい、君は!」

「猫だったらあんなに可愛かったのにな。ほら、ほどいてやるから手ぇどけろ」

イギリスの手が伸びてきて、俺の首の後ろに回った。って、近い近い近いー!!顔が近すぎるんだぞ!
しゅるりと首周りを滑って行く感覚がある。
だがイギリスは離れるどころか、より距離を詰めてきた。俺の首を抱きしめるように体を密着させて、首元に顔をうずめる。
ふわりと彼の髪から甘い香が漂った。猫の時ほど嗅覚は敏感じゃない。けど、これは、やばいんだぞ……。


「好きだ」


ぽつりと耳元に落とされた言葉。

「2週間前の答えだ」

その言葉をしっかりと理解するまでに、少し時間がかかった。

「どうして……?」

やっと絞り出した問いがそれ。
どうして?俺のことなんて、元弟くらいにしか思ってなかったんだろう?

「あんなに四六時中告白されたら絆されちまうよ、ばかぁ」

彼の甘い声が言う。首に回った腕に力がこもった。ふいに通じた想いに、胸が高鳴るのを感じた。

「って!」

何か聞き捨てならないことを聞いた気がするんだぞ!

ばりっ、とイギリスを引き剥がした。両肩を掴んだまま、彼に詰め寄る。

「四六時中って、君、俺の言葉、解って、」

猫だからと、伝わらないからと、だからこそ言葉を重ねてきたのに。
カアァーと顔に熱が集まって行くのを感じる。きっと、耳まで真っ赤だ。

「ばかだなぁ」

イギリスが俺の手を取った。それを自分の頬に押し当てる。手の甲の、柔らかな感覚が嘘のように思えた。

「お前の声が、俺に届かないはずがないんだ」

そう言って、今にも泣きだしそうな顔で微笑む。

「嬉しかったよ。ありがとう」

それは、意地っ張りな彼のまっさらな本音だった。その判別がつくくらいには、彼のことを見続けてきた。
それくらい、ずっと、彼が好きだったんだ。

「ねぇ、イギリス……」

もう一度、ちゃんと言わせて。
断られること承知の捨て身の告白じゃなくて、届かないこと承知の無責任な告白じゃなくて。

「好きだよイギリス。だいすき」

「知ってるよ、ばかぁ」

彼が照れたように、そして嬉しそうに微笑んだ。
思わずその細い体を抱きしめる。

ただただ、幸せだと思った。
















1日目から引っ張り続けたリボンがやっと日の目を見ました。
行き当たりばったりの連作でしたが、とても楽しかったです。
ここまで応援して下さった方々、アメリカ猫可愛いと言ってくださった方々、そしてここまで読んで下さった方々、本当にありがとうございました。
月並みの表現しかできず、申し訳ありません。(08/09)