手を繋いで踊らないと出られない部屋

「ほら、踊らなきゃ出られないんだろ」
「いや、でも……、」

アメリカがやけくそ気味に差し出した手を、イギリスは未知の生物を見るかのような目で見下ろし、わずかに後ろににじり下がった。

「俺じゃ不満?」

たじろぐイギリスが作った距離を一歩で詰めて、アメリカがイギリスの両手を取る。イギリスはその手を振りほどこうとはしなかったが、やはりひるんだような表情で身を引いた。

「踊る、つったってなぁ……」
「あれ、不満そこなの?」
「俺とお前が手ぇつないで陽気に踊るってどう考えても寒いだろ」

その情景を想像したのか、イギリスが苦い顔をする。アメリカはそこでようやく自分とイギリスの間で想像しているものが違うことに気づいた。

「踊るって、君もしかしてフォークダンスとか想像してる?」
「手をつないで、ってなるとそうじゃないか?」
「君お得意のやつも、手をつないでると思うんだけど」

アメリカがイギリスとつないでいた手のうち、右手を離してイギリスの腰に添えると、イギリスはようやくアメリカの意図を理解したようだった。

「俺が女役かよ」
「だって俺男役しかできないし」
「……仕方ねぇな、」

イギリスが表情を隠すように目を伏せ、アメリカの手を握り直した。

どちらからともなく、たどたどしくステップを踏み始める。音楽もなく、リズムを取るカウントもなく、二人の足取りはなかなか合わなかった。声を出してリズムを取れば楽だと分かってはいたが、お互いにどうしてか声を出すことはできずに、静かに、たどたどしく、ただただ、踊る。
二人が踊るのなど、植民地時代に社交ダンスの練習をした以来だ。まだアメリカが、イギリスの庇護下にあった頃。身長こそ今とさほど変わらない位にまで伸びていたが、その体はまだまだ少年と青年の間を彷徨う未発達なものだった。

長い長い嵐の前の、最後の穏やかな一瞬。お互いに親愛の裏に不信感を募らせながら、それでも呼吸を合わせてステップを踏むその時だけは、確かに愛おしい時間だった。
当人たちもとうに忘れ去っていたはずのその時間を、けれどその手足はよく覚えていた。

元保護者の体は記憶していたものよりも細く、
かつての幼子は記憶のそれよりもずっと逞しく。

懐かしいはずなのに、あの頃の差異ばかりが悲鳴を上げる。複雑にまじりあった感情を飲み込み切れず、二人は固い表情まま、お互いを見ることもせずに踊り続けた。



やがて少しずつ、あれほどちぐはぐだった足並みがあってくる。

「おい、これ、」

どれくらい踊ってればいいんだ、とイギリスが顔を上げ、ふつりと言葉を切った。お互いにお互いが酷く固い間抜けな表情をしていたことに気づき、しばらく見つめあってから同時に吹き出す。

「ふはっ、おまっ、なんて顔してんだよ」
「君も人のこと言えないぞ!」

お互いに同じような緊張を抱えていたことがなんだか酷くおかしくて、二人は見つめ合ったまま声を上げて笑った。張りつめていた緊張の解けた体は柔らかく相手の体になじむ。
ふっと息のあった感覚を同時に感じた二人は、視線だけで言葉を交わしあって再び足を動かし始めた。
かちり、とどこかで錠の開く音がする。

それでもつないだ手は離しがたく、二人はしばらく静寂の中緩やかに踊った。











こちらの診断で、『中津の米英は『手を繋いで踊らないと出られない部屋』に入ってしまいました。』と出たので。
04/01 Twitter投稿
04/15 サイト掲載