管理人の音楽スキルは果てしなくゼロです。どのくらいって英の料理スキル並みに。
よって以下の文章は某クラシック漫画とウィキ先生に頼って書かれたものです。
ちゃんとした知識のある方にとってはなんじゃこりゃな仕上がりになっていたり、矛盾点が多くあるかもしれませんが、寛大な心で読んでいただけたらと思います。
「俺は好きだけどな、君の音」
何気なく飛び出したであろうその言葉の威力を、貴方はきっと理解していないでしょう。
それまるで、魔法のようで。
たった一言で世界が変わることもあるのだと、そう初めて知った。
「あっ、お疲れ様ー、って、わっぷ!?」
控室を開けた先にある緩んだ付き人の顔。それに理由づけのできない憤りを感じて、アーサーは脱ぎ捨てようとしていた燕尾服の矛先にそれを選ぶことで胸の澱を解消した。
顔面にクリーンヒットした黒い布からがばっと飛び出した顔は、突然のことへの混乱に酷く微妙な表情をしていた。衝撃で眼鏡がずれて、潤んだアイスブルーがあらわになっている。我に返った青色がきっとこちらを睨んだ。
「何するんだい! 重い布って結構攻撃力あるんだぞ!」
甲高い声で抗議をするアルフレッドのすらりとした鼻梁はなるほど、僅かに赤くなっている。ちょっとした憂さ晴らしのつもりが予想以上に被害を出してしまったことに罪悪感を覚えてアーサーは素直に謝罪を口にした。
「悪ぃ、」
「ん。君の気まぐれはいつものことだしね」
今までの不服そうな顔が嘘のように、アルフレッドが笑う。自他共に認める偏屈な性格を気まぐれの一言で片づけてしまう楽天的な性格はある意味でアーサーと相性がいいのだろう。
アーサー・カークランド。音楽一家の4男坊に生まれながらも幼い時からその才能の頭角を表し、神童と謳われた天才ピアニスト。けれどそれは彼の持つ一面に過ぎず、事実その頑なな姿勢は人との接触を極度に拒んでいた。付き人が一週間で涙とともに担当を外してくれと懇願してきたことは、彼の事務所内では小さな伝説と化している。そんな経緯もあることから、アーサーの辛辣な態度にめげることなく付き人を勤め上げているアルフレッドは事務所で救世主扱いさえされている始末だ。
こいつだって、最初からこんなにそつ無くこなせていたわけではないのに。
ちらりとアーサーがアルフレッドに視線を流せば、能天気な笑みを浮かべて燕尾服の皺をのばしていた。どうも、調子が狂う。
「戻ってくるの遅かったね。またファンに引きとめられてたのかい?」
「だったらよかったんだけどな。スポンサーのほうだ」
「君ほんとにあの人嫌いだよね」
「嫌いっていうか、苦手ではあるな」
アーサーがドレスシャツの第一ボタンをはずしながら深くため息をついた。だが、その指は覚束なく、なかなかボタンが外せない。それを見かねたアルフレッドが立ち上がってたったっと近寄ってきた。
着替えまで手伝ってもらう必要なんてないと突っぱねるのは簡単なのに、どうもその顔を見ていると威勢をそがれてしまって、いつも形になりそうでならない言葉を飲み込んでいる。
大きな手が蝶ネクタイを緩め、ボタンをはずす。
僅かに楽になった体にアーサーはもう一度ため息をついた。
「疲れてる?」
「割と」
「じゃあ今日は早く家に帰ろう。車回してくるからホールで待ってて」
「や、俺も一緒に行く」
「外、結構寒いけど大丈夫かい?」
「そこまで軟弱じゃねぇよ」
短い言葉が滑らかに続くアルフレッドとの会話は、好きだ。余計なことを考えなくてもいい。腹の探り合いなんてしなくていい。だから、好きだ。
今日の夕飯の話だとか、明日の天気の話だとか、意味のない会話を交わしながらお互いに帰り支度を整えた。
アーサーが正装を解いてスーツのジャケットを羽織るころにはアルフレッドはもうまとめ終えた荷物を抱えて部屋の出入り口で待っている。扉の前でアーサーを待つその仕草が散歩をせびる犬のようでわけもなく笑みがこぼれた。
「じゃ、帰るか」
「うん」
先に部屋を出たアルフレッドがドアを押さえてアーサーを促す。やたらと気配りができる男だ。うん、知ってる。
部屋を出ようとして、自分の忘れ癖のひどさを思い出したアーサーは振り返って控室を見回した。
特に忘れているものはなし、と。
そう確認して気が緩んだ一瞬の隙にアルフレッドがごく自然な動作でアーサーの手から荷物をとった。
必要最低限のものしか入っていないような荷物。それでなくともアルフレッドの抱えた荷物はアーサーのものの何倍もある。
「それくらい持てる」
「いいから。商売道具は大切にしなよ」
そう言ってアルフレッドが笑う。
もう骨が完成していない子供ではない。重いものを持ったからといってそれが演奏に響いたりはしないのに。
苦労知らずの自分の手を見下ろして、けれど少し強引な優しさがうれしくて、結局何も言えなかった。
そんなところまで変わらないんだなと、言いかけた言葉を飲み込んでアーサーはアルフレッドの背に続いた。
ち、力尽きたのでここでいったん切る。短い、短いよ中津国さん。
続きます。「恋」の二の舞にならないようにだけ、頑張ります(12/16)