H A L L O W E E N  
   
手触りの良い、ふさふさとした尾の手入れを終えて、服から飛び出すそれのバランスを整える。
ボリュームのある毛並みは服の着方によって形が崩れたり潰れたりしてしまうし、その状態でほったらかしにしておくと癖がついてしまうから、これは念入りに確認する。

髪の色とよく似た蜂蜜をさらに煮詰めたような、そんな甘いカラメル色をした尾は垂らすと膝裏にギリギリ届かない程度の長さで、それが歩くのに合わせて左右に揺れるよう調子を整えるのが、ひそかなこだわりだった。

姿見の前に立って、髪の間からひょっこりと顔を出した、尾と同色の耳が形よく立っていることも確認する。犬のそれより僅かに鋭角な三角形に満足して、ついでに少し乱れていた前髪も整えた。

あ、いけない。忘れるとこだった。

鏡に向かっていーと歯をむいて、犬歯も確認。うん、完璧。
両手の掌を返して、磨かれた爪にも異常がないことを確かめて、全身に満足がいった事に軽く息を吐いた。

姿見に映る姿は、普段よりも古めかしい。
わざわざ倉庫の奥から引きずり出したその服を着るためには、少し丈を直さなくてはならなくて、自覚のなかった成長をひそかに喜んだ。
当時の、少し粗悪でどこかひなびた色のシャツを着て、カーキ色のズボンはサスペンダーで止める。
上着は腰のあたりから裾に切れ込みが入り、そこから尾が出せる特別製だ。長さは尾の半分。歩くたびに風を孕んで翻るのがお気に入りの服だった。

こうして古めかしい恰好をしていると当時に戻ったような気分になって、少し懐かしくなった。
試しに眼鏡を外してみるとその色はますます強くなって、少しだけ困惑した。

ああ、これじゃあ彼を笑えない。


姿見から逸らしたやり場のない視線を彷徨わせていると、来客を告げるベルが鳴った。
音につられるように玄関ホールに目を移す。その動きに合わせて耳がふさりと揺れた。心なしか、嬉しげに。
パタパタと駆け出したいのを押さえて、ゆっくりとした足取りでホールへと向かう。

ぎぎ、と重たい扉を押しあけて、ポーチに立っている青年に笑いかけた。





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