H A L L O W E E N  
   
「やあ、いらっしゃい、アーサー」

そう、扉を開けながら言った。
その先には予想通りの青年がいて、吃驚したような顔をして立っていた。
だけどなんで、

その顔がどこか嬉しそうなんだろう。


「アルフィ、」


アーサーの言葉が終わる前に、アルフレッドは重たい扉を思いっきり閉めた。

「え、ちょ、アルフレッド!? おい、何なんだよ、開けろって!」

扉を外側からガンガン叩く音がする。その音が途中から重たいものに変わったから、拳でノックするのを諦めて蹴りをいれ始めたとか、そんなところだろう。
傷がついたら弁償してもらおうと思いながら、アルフレッドは扉に重たい閂を刺した。

さいあくだ。

閉め切った扉に背を預けて、アルフレッドは手元に目を落とした。そこには外したままだった眼鏡が握られている。
ずるずると背を滑らせて、そのまましゃがみこんだ。身体と扉に挟まれた尾の毛並みが乱れるのを感じたが、今はそんなことにまで気が回らなかった。
分かってる。自分だって一瞬混乱するくらいに、あの頃と同じなんだから。

けどさ、開口一番に昔の愛称で呼ばれたら、それは怒ってもいいと思わないかい?

アルフィー、と。
彼が普段より少し柔らかい声色で呼んでくれるのは嫌いではなかったけれど、

「俺はまだ、君にとって可愛い弟のまま?」

へたりと耳を髪の中に埋めて、アルフレッドは俯いたまま目の前に立つ人に問いかけた。
吸血鬼は体を霧に変えることができるから戸締りをしても隙間がある限りその侵入は拒めないのに、なぜ自分は閂をかけたりしたんだろう。咄嗟に、彼との間に障害を作らなくてはと思ったのに、それをあっさりと乗り越えて、アーサーは玄関のホールに立っていた。

少しは空気を読んでくれないかなぁ、なんて、自分のことを棚上げして思った。

「悪かったよ、その、間違えて」

歯切れは悪いものの、素直な謝罪にアルフレッドは思わず顔を上げた。普段は、絶対に自分の非を認めようとしない人なのに。

顔を上げた先にあったのは、気まずそうに眼をそらす、兄としての彼とはかけ離れた表情だった。 そのことに少しだけ、機嫌が上昇する。

それでもまだ視線から訝しげな色を消せないでいると、それを感じたアーサーはさらに視線を明後日の方に向けながら、早口でまくしたてた。

「お、俺だってな、こんな時まで馬鹿なことで喧嘩したくねぇんだよ」

ぷい、と背けたその顔の、薔薇色に色付いた柔らかな頬が愛しくて。
アルフレッドは仕方ないなぁと苦笑することでこの諍いにけじめをつけた。

折角のハロウィンだからね。喧嘩してちゃつまらない。

「じゃあ、そろそろ出掛けようか」

人間達のハロウィンに。

普段は森の奥でひっそりと暮らす異形の彼らでも、この日は特別だ。誰もが仮装をして街を練り歩く。その中にそっと紛れ込んで、つかの間の人間との交流を楽しむのだ。
それは、一人を好みながらもどこか寂しがりやな育て親がアルフレッドと出会う前から習慣としていることだった。
兄弟という関係性を築いていた頃も、そしてその枠が変容した今でも、その習慣は続いている。

「今から行けば日没には十分に間に合うな、どこに行きたい?」

アーサーが懐中時計を確認しながらアルフレッドに問いかけた。
特にこの町に行く、と決まっているわけではない。むしろ同じ街に行き続けると疑われる可能性もあるため、紛れ込む町はその年によってまちまちだった。どの町として同じハロウィンはなく、そこ独自の雰囲気を感じるのが楽しかった。

うーん、と少し悩むしぐさを見せて、アルフレッドが口を開く。





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