H A L L O W E E N  
   
「遅かったね、イギリス」
「煩ぇ!庭にやたらと罠仕掛けやがって。折角3日がかりで呼び出した妖精さんが怖がって帰っちまったろ!」

そう言って喚くイギリスの全身には枯れ葉や枝が絡みついており、アメリカは昨晩深夜までかかって仕掛けたトラップが無事発動したことを知った。

「なら君は今回の勝負棄権だね。やった、また俺が勝ったんだぞ」
「も、って何だ。前のロシアは反則だろ! あれは引き分けだ」
「えー、だって君も驚いていたじゃないか」
「驚くの意味が違ぇよ、ばかぁ!」

ぽこぽこと湯気をたたて起こるイギリスにアメリカが唇を尖らせた。

「Booooo! 屁理屈なんだぞ。負け惜しみは見苦しんだぞ、イギリス」
「どう考えたって俺の方が正しいだろ!」

尤も、ハロウィンの元となった習慣は異形の仮面をかぶり、悪霊を追い払うというものである事を考えると、ロシアの微笑みこそ一番正しいものであろうが。なにせ、悪魔も恐れるコルホーズだ。

「もー、仕方ないなぁ。でも、今回のは俺の勝ちだからね」
「だから、なんでそうなるんだよ。俺はまだ何もしてないぞ」
「だって〜〜、いつもハロウィンのときには持ってくるあのよくできた人形も今日はないじゃないか」
「人形じゃねぇ!妖精さんだって言ってんだろ。それから、今日は呼び出した奴が帰っちまったって言ったじゃねぇか」

イギリスの言うことを全く聞きいれようとしないアメリカの胸倉を掴んで叫ぶ。
しかし、そんなイギリスの態度すらアメリカには言い訳がましく見えるのか、アメリカはやれやれと首を振った。

「またまた―。どうせ準備できなかっただけだなんだろ」
「本当だって! くっそ―。今この場で呼び出してやるからな!」

話し合いでは解決しないと結論付けたのか、イギリスはアメリカを開放してその手を己の懐へとやった。イギリスの姿はアメリカ同様に古めかしいもので、その分厚いローブの中から取りだされたのは、どこにそんなものを隠していたのかと思えるほどに分厚い本だった。

「そんなことはいいからさぁ。早く中に入りなよ。玄関開けっ放しにしてたら冷えちゃうじゃないか」

そう言ってアメリカが無理矢理取ったイギリスの手首は、案の定冷えきっていた。昨晩はとても寒くて霜も降ったようだったから、彼が落ちたであろう落とし穴の中はさぞかし寒かったに違いない。

イギリスを室内に引き入れて扉を閉める。
冷たい外気を締め出せば、暖かい空気にイギリスの体が無意識に弛んだことを感じた。

どのくらい外にいたんだろう。この人のことだから、きっと仕掛けた罠のほとんどに引っ掛かっただろうから、きっと。

空調は暖かめに設定してあるから大丈夫だろう。あとあったかい飲み物…コーヒー? 紅茶出せって言うんだろうな、む、そう考えると面白くないんだぞ。でもこのままじゃ風邪ひいちゃうかもしれないしなぁ、インスタントだけど、ポタージュでも用意しようかな。

そんなことを考えながらリビングへと歩いていくと、くぃ、と何かが足を止めた。
それは背後から裾を引かれたような感覚に似ていたけれど。

アメリカが振り向くと、尻尾をつかんで俯くイギリスがいた。

「何? イギリス」
「う、えっと、その、だな」
「何もないなら放して、形が崩れちゃうじゃないか」

言い淀むイギリスにアメリカは少し不機嫌な声を作って言った。

「あっ、悪ぃ、あの」

イギリスがパッと手を離してしまったことに、自分が言ったことだというのにわずかな苛立ちを感じながらアメリカはイギリスの返答を待った。

「な、何か言うことはないのかよ?」

言うこと?
一瞬何のことだから分からなくて、今日が何の日であったかを思い出して、ああと納得した。

その一言を告げるためにとても長い時間を要する彼の不器用さが、何となく愛おしくなって。
そうだね、今日は折角のハロウィンなんだから。




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